東洋で西洋画を描く

風邪をひいて静養している間にたくさん配信の動画を見た。

『世界で一番ゴッホを描いた男』2016年、中国制作のドキュメンタリー映画
中国南部深圳(シェンチェン)市にある大芬(ダーフェン)。ここで8000人の画工(職人)が油絵の「複製画」を年間100万点以上も製作している事は前から気になっていた。路地のような作業場で壁にピンで留めただけのキャンバスに、ゴッホルノアール、モネなどの複製画を油絵の具で描いて、乾燥したキャンバスをロール状に巻いてヨーロッパに送る。

主人公は貧しい農村出身で小学校卒だけで働きに出て画工になり20年間、今は親族で固めた工房のボスとなって年間何千枚もの絵を生産している。

憧れのゴッホを映画で見ようとビデオ上映会を開く。そこで流されたのは、カーク・ダグラス主演の「炎の人ゴッホ」だ。学生に見せたかった映画だが入手できなかった。

複製画の取引先からも甘い言葉をかけられ、何とかして本物のゴッホを見ようと遣り繰りしてやっとアムステルダムに到着すると、広場のお土産物屋に自分たちの描いたゴッホがTシャツやDVDと一緒に並んでる。画廊じゃなかった。しかし、価格は売値の10倍だ。それでも本物のゴッホに対面して高揚。手の平サイズのプリントで大きな複製を描いていたのだ。

ゴッホの足跡を辿ってパリからアルルへ。オーベルニュの病院へも。ゴッホの墓地では中国式にお参りをする。現実に落胆もした主人公は失意の底で自殺したゴッホと真剣に対話する。(テオの墓も隣に並んでいるが一顧だにされなかったのは残念)

ヨーロッパで「君の作品はどれか?」と(当然のように)尋ねられたことから、初めて挑戦したオリジナルは、敬愛する祖母だった。

20年間、何千枚という絵を描いてきた人だ。俺は模写の学習効果も信じているから期待は高まっていた。しかし・・・その絵を見て俺はショックを受けた。すごく下手だったのだ。

再現技術ではなくて、画面構成、構想が欠落しているという意味での下手。よく、絵になってないとかデッサンがないとか言われる。

部分をトリミングするとゴッホで鍛えた細部へのツッコミが活きて良くはなるが。

空間や人物の全体が描かれると苦しい。フォークアートの素朴さがもっと出されるといいのだが・・・

1年に一枚でも自分の絵を描いていこうと、仲間たちと声を掛け合って映画は終わる。

絵を学ぶってどういうことだろう?

ともかく毎日描き続ける事だ!と継続を盲目的に信じる人もいるけれど、ワイドに西からの視点から見れば極東人の猿真似。こういう蔑視に気づいて自分たちの視点を強調しはじめたから現在の国際問題が発生する。

東洋で西洋画を描く意味やグローバリズムが戯画化されているようで、深圳の蒸し暑さがねっちりと肌に残った。