敬老の日

 伯母が老人介護施設に入っている。京都西部、大原野の山沿いという、例によって交通不便な立地なので、暑かった先月には足が向かなかったが晴れ渡った青空に促されて自転車で向かう。
市内とは違って周辺部は大きな道路ができてずいぶん様変わりしているが、さすがに京都だけあって旧街道沿いは古い民家もしっかり残っている。
少年時代からよく自転車で走ったところだけに懐かしい光景があちこちに見られた。
見事な石段で名高い光明寺に寄って汗を冷まし、静かな堂内に正座して不信心な俺には珍しく虚心で亡くなった人たちを思い出して祈る。
そこから大汗を拭いながら急坂を登って竹林を抜けると施設が見えた。
ちょうど敬老会というイベントが始まる前で次々と老人たちがホールに連れられてくる。ほとんどの人たちが車椅子で自走もできない。無表情な様子を見ていると伯母さんの状態が心配になってきた。15分もしてようやく現れた伯母さんは何と同僚の車椅子を押している。
かけつけると「よおっ!」と手を上げて快活に笑う。まったく昔のままだ。
それでもこちらの話は通じなくてお土産も受け取ろうとせず、誰かにあげようとしたり、こちらのこともどこまで分かっているのか怪しい。
会場には100人近い老人が集まったが、9割近くが車椅子でその半数は居眠りしているか無反応。
100歳の方が4人も居て表彰があり、続いて米寿の人たちに記念品が贈られる。この歳になると12年の年齢差は外見では目立たない。
続いて職員による演芸ショー。着物姿で派手に着飾った女性3人組はセミプロ並みの面白さだが「どははっ」と笑ったのは俺だけで全員沈黙無反応。「起きてくださいよおっ!」と会場を巡りながら連呼する職員。障害を持つ人が集まっているのだから仕方ないことだが大変さが徐々に見えてくる。それでも次第に手拍子など加わり、美空ひばり、口パク歌謡ショーのあとは和太鼓。これはさすがに体が震えるので反応が期待できるのだが、それでも半数は・・・
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40分ほどで敬老会は終了して、伯母さんは施設の外まで見送ってくれる。このあたりの動作は全く普通の様子で何処が悪くて施設に入ることになったのかと思われるほど。
岐阜に住んでいた伯母さんは、2度ご亭主を病気で亡くしたり、水害にあったりと不運続きにも関わらずポジティブに生きてきた。俺が最初に乗った車は伯母さんから譲ってもらったもので結婚前の我々二人が岐阜まで引き取りに行った。そのときに見た長良川の花火大会ほどスゴイのはなかったなあ。広島に転居してから、長男の出産を前にして俺が入院したとき、突然見舞いに来てくれて女房はとても励まされた。
自転車で去る俺を大きく手を振りながら見送ってくれる。さっと走り去りたいところだが、急坂で前に進むのがやっとこさ。その場の雰囲気からして降りて押す訳にも行かず、必死で漕ぎながらこちらも手を振る。カーブを曲がるまでに大汗をかいた。
言葉は通じなかったが、文字はしっかり読めているようだったので、また便りを送るようにしよう。