今は昔

京都に居る時はこまめにあちこち出かけている。旅行者でも住民でもないポジションがその動機を保っているのだろう。幸い実家は駅に近い中心部だから、自転車を使えばほとんどのところに1時間以内で行ける。行き先は社寺や美術館が多くなるのは当然だが最近、美術館の入館料が急に高くなっていて二の足を踏む。美術愛好家は裕福だろうという想定の価格設定だ。これではただでさえポピュラーカルチャーに圧倒されている現状がさらに2極化して亀裂が深まり、孤立して衰退するのではないか。

そんなことを考えながら家に留まってゴロゴロと日なたぼっこしていたのだが、夕食の準備もあるからイオンモールに出かけ大型書店で立ち読みする。よくもこれほどたくさんの本が出版されているなと呆れながら美術書コーナーに来ると、名画全集の類が全く無い。新人作家の画集や浮世絵が少し並んでいるだけで、いわゆる巨匠と呼ばれる作品集は皆無である。デザイン部門の出版物は絵画の56倍はあるから、売れ行きに対応した書棚の配分になっているのだと推測される。

30年前までは京都市内に美術洋書を扱う書店が幾つもあった。とても貴重な情報源だったから、学科の図書費でたくさん購入した。書店から大学に売り込みの段ボール箱が送られてくる事もあったなぁ。それらの書店も雲散霧消、時代は変わった。そんなことは当時の駅周辺風景を思い出せば分かること。セメントの高い塀が続く誰も居ない道。ここがモールになって俺はその2階に立っている。